石原都政検証記事の転記(2)

 昨日に続いて記事の転記を行なうことにする。

朝日新聞 地方版
8年の軌跡 石原都政検証(2) 五輪招致 きしむ足元−−まとまらぬ組織・財源−−(2007年3月14日)


 会場のスクリーンに、来賓として駆けつけた長嶋茂雄・元巨人軍監督と石原慎太郎知事がにこやかに握手を交わす姿が映し出された。安倍首相もあいさつに立ち、
「東京こそ、オリンピックを招致するのにふさわしい都市です」
と持ち上げた。
 5日。東京タワーを望む高級ホテルの大宴会場に、政財界やスポーツ界の著名人ら約1300人が集った。都と日本オリンピック委員会(JOC)が合同で立ち上げた「東京五輪招致委員会(招致委)」がNPO法人格を取得し、そのお披露目パーティーだった。
「国の全面協力が不可欠だから、首相のあいさつは大きな意味を持つ」。
都幹部が、にやっと笑った。


<一本化はせず>
 都が招致を目指す16年夏季五輪の開催地が決まるのは、09年10月の国際オリンピック委員会(IOC)総会。船出は順調に見えたが、その足元で早くもきしみが出ている。
 「招致委」の事務局は都庁41階にあるが、その15階には、都職員だけでつくる「都招致本部」も入っている。福岡市と争った昨年8月の国内選考まで開催計画の作成を一手に担った部署で、「09年に向け、計画をさらに練り上げる」(都幹部)との目的で今も残る。
 一方、招致委でも、開催計画の見直しを検討する小委員会が近く立ち上がる。あるJOC幹部は
「組織は一本化した方がいい。役割分担がはっきりしない」
と漏らす。都は
「国や市町村との折衝や対外的なPRでは、『東京都』の看板の方が有利な場合がある」
と一本化には難色を示す。
 都は招致費用を15億円用意したが、招致委には1円も渡っていない。すべて都招致本部が、計画の練り直しや広報活動などに使う予定だ。
「招致活動に精通した海外のエージェントを雇うにも金がかかる。約束が違う」
と憤るJOC関係者。
「招致委に出すとは、初めから言っていない」
と都幹部はにべもない。


<施設も「難題」>
 まとまらないのは、組織や金だけではない。
 都の現行計画は、開閉会式や陸上競技を行なうメーンスタジアムを東京湾臨海部に新設する。しかし、JOCや競技団体には
「沿岸部は風が強く、競技への影響が出る」
と疑問視する声が根強い。
「老朽化した神宮の国立競技場を大規模改修したい」
との文科省の思惑も絡み、事態は流動的だ。
 プレスセンターの候補地である築地市場中央区)を巡っても、議論が巻き起こっている。都は市場を12年度中に江東区豊洲地区に移転させ、跡地にプレスセンターをつくる計画だが、築地市場で働く業者の一部から「移転反対」の声が強まっている。豊洲の土壌が発がん性物質などに汚染されている、というのが理由だ。都は
「土壌を入れ替え、アスファルトで覆うことで安全性は確保される」
とアピールする。
 「(08年夏季五輪を中国・北京市と争って惨敗した)大阪市は、市民が盛り上がらずに失敗した。都民世論を盛り上げる工夫をしろ」。
石原知事は、都幹部にこんなゲキを飛ばしているという。招致委の名誉総裁は皇太子ご夫妻に−−との構想も、世論を引きつけたいとの思いからだ。
 会見などで五輪について聞かれると、石原知事は最近、
「都民の75%が、やろうじゃないか、と言ってくれている」
と口にするようになった。ある全国紙が2月に実施した世論調査での、五輪開催に対する支持率だ。


<民意「読めぬ」>
 だが、朝日新聞社が今月行った調査では、「これまで通り進めるべきだ」は31%、「再検討すべきだ」は40%、「中止」も19%だった。都幹部は、
「民意がまだ読みきれない」
とこぼす。
 海外に目を向ければ、強力なライバルが目白押しだ。96年以来、夏季五輪の舞台から遠ざかっている米国は近く、国内立候補都市をシカゴかロサンゼルスのどちらかに決める。五輪を開催したことがない南米大陸からはブラジル・リオデジャネイロが立候補する。
 JOC幹部からは、こんな懸念が漏れる。
「東京は今、3番手。内部でもめている場合ではない。このままじゃ、大阪の二の舞いだ」


<石原知事発言録>
「結構なことだと思いますね。日本にオリンピックを招致するなら、キャパシティーからいっても東京しかない」(05年8月、会見で。初めて五輪招致に言及)
「オリンピック開催を起爆剤として日本を覆う閉塞感を打破するためにも、日本の首都である東京に招致したい」(05年9月、都議会で招致を正式表明)
「このごろ日本は元気がない。周りの国からなめられている。『日本をなめたらあかんぜよ』という表示にオリンピックをやりたい」(06年1月、「スポーツと都市」をテーマにしたトークショーで)
「周りの国に勝手なことを言われ、何かむしゃくしゃしている時に、おもしろいことねえか、お祭り一丁やろうじゃないか、オリンピックだぞ、ということでドンと花火を打ち上げればいいじゃないか。気分も浮き浮きして」(06年3月、会見で)
「(12年開催の)ロンドンまでは、いわば20世紀的なオリンピックでしょう。東京オリンピックが実現すると、全く今までとは違った資質を備えた、極めて近未来的なオリンピックにする自信はあります」(06年6月、JOCに開催概要計画書を提出した日の会見で)
「五輪招致を言い出したからには、途中で投げ出すわけにはいかない。引き続き、首都のかじ取りを命がけで行いたい」(06年12月、都議会で3選へ向けた立候補を正式表明)
「両殿下(皇太子ご夫妻)が(招致委の名誉総裁の席に)座ってくだされば、(五輪開催に対する)国民の期待感や支持につながってくると思う。国民的な代表として皇太子ご夫妻にお願いしたい。僭越な言い方だが、皇室のためにもいいんじゃないか」(06年12月、朝日新聞のインタビューで)