石原都政検証記事の転記(1)

 都知事選の論評をするといっても、これまでにいろいろ聞き散らしてはいたにせよ、そういった情報を何らかの形でまとめるという意味では大した蓄積があるわけではないので(石原都政に関する情報を集めたサイトとしては、例えばこちらを参照)、まずはしばらく材料集めを行なうこととする。手始めに、先日まで朝日新聞の地方版で「8年の軌跡 石原都政検証」という連載記事が載っていたので、それを転記することにする。分量が相当あるので、何日かに分けて転記を行なうこととする。今回はこの記事(この時代錯誤的な写真は何とかしてほしいものだが、しかしもちろん、時代錯誤なのは写真ではなく石原都知事その人なのである)。

朝日新聞 地方版
8年の軌跡 石原都政検証(1) 国にもの言う姿勢強調−−世間の「喝采」求め続け−−(2007年3月13日)
(「国にもの言う姿勢強調」の部分が大見出し、−−−−で囲んだ部分が中見出しである。(2)以降でも同様に記述することにする)


 「国がかなり乱暴な課税体制になったんで、随分困る人が出る。(都による)一種の福祉だと思いますよ」
 2日の定例記者会見。低所得者の住民税を軽減する選挙公約を披露した石原慎太郎知事は、胸を張った。
 国から地方に税源を移す国の税制改正では、国が受け取る所得税を減らす一方で、地方が受け取る住民税を増やす。知事は、低所得者の住民税が増えるという点だけをとらえて、「国の失策を突く石原流」で公約の狙いを説明した。
 だが実は、今回の税源移譲では、住民税が増える人は国の所得税が減り、合計負担額は変わらない。この公約は、知事が都幹部に提出を求めた「宿題」だった。別の都幹部は
「知事が好むよう、国にもの言う政策に合うように仕立てて知事に説明したんだろう」
と解説する。


<持論と正反対>
 公約は、ニートやフリーター、パート労働者といった経済的弱者を救済するものだが、知事はちょうど1年前の議会で、
「フリーターとかニートとか、気のきいた外国語使っているけど、私にいわせりゃ穀つぶしだ」
と発言している。公約は、知事の持論とは正反対の内容だけに、都庁内では
「選挙で焦っている」
とささやかれている。
 東京から日本を変える−−。初当選の時のスローガンを、知事は2期8年間繰り返してきた。
 都内のぜんそく患者が国や都、自動車メーカーなどを訴えた「東京大気汚染公害訴訟」では、知事は昨年、国やメーカーなどと都がぜんそく患者の医療費を助成する制度を提案。一方で、一審で敗訴しながら、公害の責任を認めない国を非難した。知事は自ら東京高裁に出向き、裁判長の前で
「国は大気汚染を放置した不作為の責任をとろうとしていない」
と、排ガスに混じる黒いすす入りのペットボトルを振った。
 排ガス基準に満たない車を締め出したディーゼル車規制は首都圏3県に広がった。ある都議は
「嫌がる業界団体を説き伏せられたのは、選挙の票や資金が組織頼みでなく、しがらみがない石原慎太郎のなせる技」
と評価する。


<財政力裏打ち>
 しかし、国に対する強硬な姿勢は、都の財政力の裏打ちがあるからともいえる。財政規模はベルギーの国家予算並み。他の自治体が財政難にあえぐ中、06年度の税収は約4兆9千億円と過去最高を記録した。
 しかも、「国を動かしているように見えて、実は国の思惑にうまく乗せられている面もある」と話す職員も少なくない。
 現在建設が進む首都高速中央環状品川線は、完成を急いだばかりに、事業の半分を都の事業として引き受けることになって実質900億円の負担を強いられた。自治体が高速道路を建設するのは異例だ。知事が強く訴えている羽田空港の国際化でも、再拡張事業で都は国の求めに応じて無利子で1千億円を貸し付けた。神奈川県の負担は100億円、埼玉、千葉両県はゼロだった。さらに都は、国から支払われるはずだった交付金も1千億円減らされた。
 公的資金の注入で救われた大手銀行を標的にして喝采を浴びた「銀行税」を例に挙げ、ある都議は言う。
「誰もが眉をひそめ、不満を募らせていることにパッと飛びつくのがうまい。バランス感覚にたけた政治家にはない突破力がある」


<欠ける公平性>
 ある都幹部は石原知事の都政を一言「ポピュリズム大衆迎合主義)」と表現する。
「我々職員も地道な取り組みより知事にウケる施策に走り、この8年間で組織の政策立案能力が低下した」。
知事が最近打ち出す施策は、国を相手にする「石原色」は出せても、政策として公平性に欠けるなど、首をかしげたくなるものも少なくないとも指摘する。
 例えば「銀行税」。03年の控訴審判決で、税率の高さが「著しい不均衡だ」と判断され敗訴した。今回のぜんそくの医療費助成案は、排ガスと縁のない島部の患者も全額助成する手厚い内容。他の疾病患者への対策と比べ、内容に大きな差がある。
 政党公認や推薦を受けず、それでも前回の知事選で308万人から信任を得た「スター知事」。どうすれば世間の注目や「喝采」を常に浴びていられるか、躍起になっているようにさえ見える。


◇ ◇ ◇


 2期8年にわたった石原都政。「もの言う知事」の言動は時に大きな関心を集め、時に物議を醸してきた。その舵取りは、1200万都民に何をもたらしたのか。知事選が22日に告示されるのを前に、都政の現状と課題を知事の言動を振り返りながら検証する。


<石原知事発言録>
「日本は下手をすると沈没する。東京から日本を立て直しましょう」(99年3月、初出馬の選挙戦で)
「国とぶつかって負けてもいい。恥をかくのは国だ」(99年11月、車メーカー幹部を前にディーゼル車規制への協力を求めて)
「何か国の鼻をあかす方法を考えようということで、知恵を絞って出した主税局の成果です」(01年3月、「銀行税」について都議会で)
「国が今までやろうと思ってやれなかったことを、東京都が先走りでやったことで論議が進んだ」
「銀行は得したかもしらんね。(通常は)取れないような金利を(税金の過徴分を銀行に返す際に)こっちは払わざるを得ないんだから。しかし、それは覚悟の上だし、別にそんな大きな心配をいただくことはありません、財政に」(03年9月、「銀行税」訴訟で敗訴し、和解を受け入れ、会見で)
「既存の法律に触れない運営というのを考えたけど、やっぱり無理ですな。国の頭が固すぎて」(03年6月、お台場カジノ計画について、会見で)
「なりたいわけではないが、国に向かって『仕切り直しだ。まず、総理、出てこい』と言えるのはおれだけだろう。そのけんかなら買ってでる」(全国知事会長就任への意欲について。05年1月、朝日新聞の単独インタビューで)
「都から搾り取ることしか考えない国の動きには、徹底抗戦の構えで臨んで参ります」(05年12月、東京都の税収を他県へ回す国の税制改正の動きに、都議会で)
「都庁のスタッフでは国の情報はとてもとれない。相手を脅し、すかししてでも、調整する能力のある人間は他にいません」(06年7月、議会に迫られ更迭した側近の浜渦武生・元副知事を都参与に戻して、会見で)
横田基地の軍民共用化や3環状道路の整備などの懸案事項では、首相官邸にも参りまして、直接談判にも及ぶことがございましたし、大気汚染訴訟では、裁判官に直接、文明批判としての都政の姿を伝えて参りました」(06年12月、都議会の答弁で3選出馬を表明して)
「ちょっと他の人だとなかなか政府が動かないんじゃないかと思うし。私ならできるかなと思うことはあります。ということでオリンピックを言い出したから、もう1期やろうと思ってます」(07年2月、他の知事選立候補予定者の名前が挙がるなか、報道陣に)


追記
 毎日新聞でも都知事選に合わせた連載記事が出ているようである。リンクを掲げておくことにする(また、続きの分は随時リンクを掲げる予定)。
まちに聞く:’07都知事選/1 新銀行東京
まちに聞く:’07都知事選/2 五輪招致と市場移転
まちに聞く:’07都知事選/3 都立病院改革